●日本映画の国際進出の状況と課題
西村隆
1997 年、日本映画は、カンヌ、ヴェネチアの映画祭で合わせて3つの賞を受賞。そのレベルの高さを大きくアピールした。また、受賞者の一人である北野武はヨーロッパの映画ファンに支持者が多いことでも知られている。とはいえ、こうした現象は、あくまで映画「業界」内の話であり、一般の観客層を含めた「映画の世界市場」ということで言えば、日本映画の存在感はまだ決して大きいとは言えない。
日本の映画製作者による国際進出のプロセスは3つのレベルで考えられる。まず第 1 は、日本映画の海外映画祭出品である。作品や作り手の国際的な認知度を高めるためには、国際映画祭という場は絶好の機会だ。第 2 は、映画祭上映に止まらず海外の一般映画館での上映を目指すこと、つまり海外配給である。そして第 3 のレベルが、日本映画への海外資金の導入。日本映画のプリセールス、もしくは他国との国際共同製作である。完成してから映画を売るのではなく、完成する前の段階で販売を行うことと言い換えてもいいかもしれない。
現在の日本映画はこの第 2 段階を始めたところにある。日本映画が海外の映画祭で上映されることはもはや珍しいことではない。今では映画祭上映から海外での一般公開へと、日本映画の海外プロモーションの課題は進みつつある。第 3 のレベルについては、一部の先進的な事例を除いてまだ着手できていないのが現状だ。
これまで日本映画(アニメを除く)は海外の市場をほとんど考慮せずに展開されていた。国内で企画され、資金が集められ、製作され、配給され、テレビやビデオでリリースされることだけでビジネスを成立させてきたわけである。もちろんこのビジネスモデルは今でも健在だ。大手配給会社、テレビ局、出版社、広告代理店を中心とする強者連合によって製作された日本映画には、日本国内ではハリウッド映画を上回る売り上げを記録するものも多く、特に今世紀に入ってからは市場全体が順調に拡大。ついに 2006 年は 21 年ぶりに邦画が洋画の興行収入を上回るまでになった。
だからといって、映画市場のグローバル化が進む中で、国内だけでの資金回収をしていては、産業や文化としての大きな成長は望めない。国境という枠を超えての活躍が望まれることも確かである。
映画の世界配給ビジネスの殆どは、米国ハリウッド・メジャー系映画会社が行っている。海外で高い興行収入を上げた「 Shall We Dance 」やポケットモンスターを始めとする多くのアニメ映画も、ハリウッド系各社が世界配給を担当している。しかし、海外配給のルートはこれだけではない。ヨーロッパ各国やカナダ、オーストラリアでは、全く別のルートで各国間の映画の国際展開を図っている。この具体的なあり方が、先に述べた国際共同製作である。
各国の映画関係社、映画関連の企業が始めから製作枠組みを共同化することにより、ハリウッドの世界配給網に頼らなくても、つまり大規模な商業映画作品でなくとも、複数の国での配給が可能となる。加えて資金面、人材面でも規模拡大が容易となる。この結果、上記の各国では、多数の国際共同製作が行われ、相互に映画市場を拡大することに成功している。
国際共同製作の拡大の契機となるのが、「各国での映画製作の補助制度」を相互に利用しあうことができる「共同条約」の締結である。一般に条約締結に当たっては、「自国と同等の補助制度が相手国にもある」ことが前提となるため、日本の場合には、まず各国と同様のレベルまで映画製作の補助制度を強化し、その上で条約を結んでいく必要がある。
先駆的なインディペンデント作家を生み出す背後には広大なインディペンデント映画のコミュニティがある。既に世界的に認められる才能を多数生み出してきている日本のインディペンデントのコミュニティを、経済的な要因で衰退させることなく、次代の映画産業、映画文化の母胎としていくためには、上記の国際共同製作の推進など、各種の支援施策の拡充が望まれる。
|